久米裕選定 日本の百名馬

ドクタースパート

父:ホスピタリティ 母:ドクターノーブル 母の父:タケシバオー
1986年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1皐月賞

▸ 分析表

ドクタースパートは、前脚が少し外向ぎみだったために、当初は中央競馬には入厩できず、北海道の道営競馬からスタートした。そこでじっくり育てられ、北海道3歳優駿を勝った後、中央関東の柄崎厩舎に転厩してきた。ちょうどその頃、1歳上には、やはり公営笠松から中央に転厩してきたオグリキャップがいて、快進撃を続け、スター街道を歩み始めていた。そのために、公営からの転厩馬が注目されるようになり、ドクタースパートも、中央初戦になる京成杯3歳S(G2)では、2番人気に推された。そして、同馬は期待に応え、堂々の勝利をおさめている。

皐月賞では、朝日杯3歳Sの覇者サクラホクトオー(父トウショウボーイ)、トライアルで好走したアンシストリー(父マルゼンスキー)に次いで、ドクタースパートは3番人気。このレースで2着に入り、その後ダービー馬となるウィナーズサークル(父シーホーク)は、前走条件戦の勝ち上がりということもあって、7番人気であった。

皐月賞当日は、前夜から降り出した雨が激しくなり、馬場コンディションは不良。1番人気のサクラホクトオーは、得意のスピードと差し脚を生かすことができず、20頭立ての19着と惨敗。それに対して、ドクタースパートは、鞍上に的場均騎手を得て、絶妙のタイミングで3コーナーからまくり、後続を完封して優勝。馬場状態を見越した的場の早めのスパートが、功をそうしたいえるだろう。

もうひとつ、この馬のレースで思い起こされるのは、最終戦となった5歳暮れの中山でのステイヤーズSのレースぶり。皐月賞以来1年8カ月、勝ち星から遠ざかっていたが、ここでも的場の好判断、好騎乗が光った。スタート直後は後方につけ、よどみないペースを徐々に進出して、3~4コーナーで先頭に立ち、そのまま粘りきるという、これぞスイテヤーといったレースを見せ、優勝を果たした。

《競走成績》
公営北海道で7戦4勝。中央では11戦3勝。主な勝ち鞍は、京成杯3歳S(GⅡ=芝1,400m)、皐月賞(GⅠ=芝2,000m)、ステイヤーズS(GⅢ=芝3,600m)

父ホスピタリティは、南関東公営大井で青雲賞、羽田杯、黒潮杯など8戦8勝の戦績をあげ、4歳夏に中央に転厩した。セントライト記念では、同年の皐月賞馬アズマハンターをくだし、転厩初戦で勝利をあげた。しかしその後オープン2着後に脚部不安を発生し、競走チャンスにめぐまれなかった。それでも5歳になってたった一度出走したオータムスプリント(芝1,200m)を制し、非凡な競走能力を証明した。

ホスピタリティの配合の見どころは、スピード・スタミナのバランスのよさと、その結合状態にある。6代以内でクロスしている血を見ると、まずスタミナがTeddy、Gainsborough、Swynford。スピードは、Lady JurorとPharosで、このいずれもが、St.Simon、Bay Ronaldできっちりと結合を果たしている。

また、スピードを裏づけるSundridge、Orby-Ormeもきっちりと役割を果たし、アシストしている様子が読み取れる。ここがホスピタリティの強さ、速さの原動力。現代ではなかなか見られない、シンプルで味のある血統構成の持ち主であった。

同馬の8項目評価は、以下の通りになる。

 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~12F

▸ ホスピタリティ分析表

母ドクターノーブルは未出走。母系のダルモーガンはハイセイコーの祖母で、公営から中央に転厩し、春の天皇賞でメジロムサシの2着に入ったオオクラの母。この系統からは、その他に、七夕賞を制したニッショウなど、重を得意とした馬が出ている。

BMSのタケシバオーは、短距離から長距離まで、オールマイティな活躍を示した馬で、それを裏づけるように、Gainsborough、Son-in-Lawをそれぞれ4×6(中間断絶)とし、父母の持つスピード・スタミナをみごとに結集させた配合馬であった。本質的には中長距離向きの様相を呈しているが、短距離のスピード対応を可能にしたのは、Orby-Ormeの系列ぐるみと、Friar Marcus内Cylleneによるものと推測できる。

タケシバオーの8項目評価はつぎのようになる。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 8~15F

▸タケシバオー分析表

こうした父母の間に生まれたドクタースパートであるが、一般的な血統論では、ほとんど注目される存在ではなかった。しかし、そのクロスを検証していくと、父母の持つスピード・スタミナ、そしてその特徴をみごとに引き出していることがわかる。

まず、主導は、位置と系列ぐるみの関係から、Hyperionの6×5。次いで、ほぼ同等の影響力でWar Admiral、Nearcoがいる。これらの系統は、必ずしも相互に強固な結合を果たしているとはいえず、Hyperionも全体の中では多数派ではない。そのために、きわだった個性や迫力には欠けることは否めない。

しかし、Sainfoinの血を頼りに、War AdmiralとPharos、Hurry On、Sundridgeが結合を果たし、相互に最低限の連動関係を保っていることは読み取ることができる。さらに、前述のホスピタリティのスピード源であるLady Jurorと、タケシバオーのOrby系。スタミナも、Gainsborough、Son-in-Law、さらにHurry On、War Admiralと核を形成し、スタミナ優位のみごと血統構成となっている。

 以上を8項目に照らすと、以下のようになる。
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○ (⑨=△、⑩=○)
 総合評価=1A級 距離適性=9~15F

4歳三冠のうち、もっとも距離の短い皐月賞を制したわけだが、血統構成上では、むしろ菊花賞向きのタイプと判断でき、ステイヤーズSを制したことも、それを証明しているといえる。皐月賞の勝因は、道悪と相手関係にめぐまれたこと、そして的場騎手の好判断に起因すると考えるべきだろう。

ドクタースパートの血統構成は、いまみてきたように、本来ならば中長距離型の様相を呈しているのだが、そのスタミナ要素を備える要因となったのが、母の母内のロダン。あまり目にすることのない血だが、ロダンについても触れておこう。

ロダンは、1956年英国産で、父はキングジョージをはじめ5勝をあげたSupreme Court、そして母はRibotの母Romanella。となれば、一般的には「期待の名血」ということになるが、自身はMarcovilの4×5(系列ぐるみ)、Buchanのの6×4(系列ぐるみ)、Pharosの4×5(中間断絶)と、5代以内に異なるクロスを持つ凡庸な配合。そして、実績としても3戦未勝利。スタミナの質はよいが、いかにもスピード勢力が少なかったことが、種牡馬としては成績不振だったことの要因と考えられる。

▸ ロダン分析表

しかし、ドクタースパートの中では、そのロダンの血が母内3代目に後退し、ちょうどよい位置で、Hurry Onが系列ぐるみとなり、TredennisやGay Crusaderといったキーホースを押さえたことで、スタミナを再現して、能力形成に大いに役立っている。スタミナ系を多く含む血統の種牡馬は、期待ほどの実績を残せなくとも、代を経ることで、競走馬の能力形成の上で、底力につながる重要な役割を果たす可能性がある。ロダンの血はその1例を示すものだが、世界的なレベルでいえばRibotがその代表例である。

ドクタースパートは、後にステイヤーズSを制するわけだが、そのときの生産者のコメントに、「それにしてもホスピタリティの仔で、こんな長距離を勝てるとは」といった、血統上の感想があった。しかし、先述したように、ドクタースパートにとっては、まさにこのレースこそがもっとも適した距離だったのである。

とはいうものの、この馬の戦績で変わっているのは、やはり制覇した3つの重賞レースの距離だろう。京成杯=1,400m、皐月賞=2,000m、そしてステイヤーズS=3,600m。何と短・中・長とすべての距離領域を制しているのである。もしも、「血統の不思議」という言葉が当てはまるとすれば、BMSのタケシバオーが、英国フェア=1,200m、朝日杯3歳S=1,600m、毎日王冠=ダ2,100m、京都記念=2,400m、そして天皇賞=3,200mを制し、同じようにオールマイティな距離適応で活躍したことだろう。最近ではめったに出会うことはできないが、まさに血統の生み出す個性の面白さといえる。

最後に、ドクタースパートが勝った皐月賞(1989年)で人気になった馬たちの血統評価を紹介しておこう。

●サクラホクトオー 3B級 ⑬⑥②⑱
 スタミナ不足で上級ではないが、スピードに個性。

▸ サクラホクトオー分析表

●アンシストリー 2B級 ④①⑤⑨
 父のよさは半減したが、良質の母のスタミナ生きる。

▸ アンシストリー分析表

●ナルシスノワール 1A級 ④⑮⑦③
 Abernantをはじめ、スピード再現に迫力あり。

▸ ナルシスノワール分析表

●ウィナーズサークル 3B級 ⑨⑥①⑨  
 バランスとスピード欠くが、父のスタミナが武器。

▸ ウィナーズサークル分析表

ドクタースパートは、その戦績だけを見れば、「名馬」と呼ぶには、いささかふさわしくない実績といわれるかもしれない。しかし、この馬の持つ血統構成には、馬の仕上げやレース選定を慎重に行えば、さらに上の成績を望めた可能性が読み取れる。

そして、もうひとつ加えれば、この馬の騎乗には、的場騎手が後年、ライスシャワーやグラスワンダーで見せてくれた競馬の醍醐味の萌芽が見られること。すなわち、血統構成に示された馬の特徴を最大限に引き出す騎乗法である。いわば、的場騎手の原点ともいうべき血統とレースの関係を、ドクタースパートに見いだすことができるのである。その意味で、今回、的場騎手の引退を機会に、この馬を取り上げてみた。

 

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